「機能強化型の在宅支援診療所及び在宅療養支援病院について、各年度5月~7月の訪問診療の算定回数が2,100回を超える場合においては、データに基づく適切な評価を推進する観点から、次年度1月から在宅データ提出加算に係る届出を要件とする」
上記は令和6年度の診療報酬改定で示された、在支診・在支病における施設基準の一つです。
これに該当する医療機関の医事課の方たちのプレッシャーは大きく、あるご支援先でもいくつかのトラブルがありました。

▽不安は不満に化ける
3カ月で2,100回以上ということは、月700回以上の訪問診療が行われているということなので、当然すでに相当の忙しさがあります。そこへきて、なにやらデータを出せといわれても、医事課の職員の多くが女性で、きっと多くの医療機関では、デジタルネイティブではない世代の人が多いのではないでしょうか。
そうしたスタッフさんの不安を除くこと。それがデータ提出加算の届出に最初に現れた壁でした。
ただこのあたりは、月700件どころか、1,800件以上の処理をしているスタッフさんなので、厚労省の説明資料を使った説明や、動画などを視聴して自主的に勉強してもらうことで、解消されていきました。
日々目の前の仕事量に追われ、家庭に戻ればお子さんや旦那さん、もしかしたら親や姑の面倒までみているような人がいても不思議ではない方たちへ、自ら調べ、学ぶことを頭ごなしに説明しても理解などされようはずがありません。
分かっていてもできない・やる時間がない—という自分の中での葛藤や、どういう着地になるかイメージできない不安が、不満という形になって表れるのではないでしょうか。
<不安の解消>。これは何をするにしても最初の一歩であることを改めて学ばせてもらいました。
▽青天の霹靂
普段から電子カルテや医事データの扱いには慣れていらっしゃるスタッフさんたちですので、その後は電子カルテベンダーや「外来医療等の影響評価に係る調査事務局」から提供されている支援ソフトやツールなどを使い、順調に試行データが作成されていっていたようです。
—ようです、とは無責任な言い方ですが、他にやらなければならないことなどもあり、こちらについては時折「どんな感じですか?」と声をおかけしていた程度で、実際の試行データの確認まではしていませんでした。
思えばこれが良くなかった最大の要因。後から大きな壁となって立ちはだかることになりました。

▽できる、という見積りも大切
「エラーの量が多すぎるのと、エラーが何を指しているのか分からないものもあるので、今回のデータ提出できません」。
共有させていただいているチャットツールに届いたメッセージはなかなかの衝撃でした。このとき、試行データ提出の決め切りはあと1週間ほどに迫っている段階でしたが、詳しく話を聞くと、一月のエラーだけでも約2,000行。2カ月分だと3,600行のエラーメッセージが表示されたようです。
エラー内容を共有いただいたところ、乾いた短文のエラーメッセーと機械的なエラーIDが並んでいました。パッと見るとその量に圧倒されそうで、「できません」と言っても仕方のないことだと思いました。
しかしよくよく見て、エラーデータを並べ替えたりしてみると、エラー内容はある程度共通の内容であることが分かりました。これならば、エラーの原因さえ分かれば、一つのエラーを解消すれば盤上でオセロの色が変わるようにエラーは潰せるかもしれない。
修正作業そのものに時間がとられるのは確実でしたが、手も足もでない—という状況ではないことが分かり、院長へ諦めず提出することを提案しました。
幸い、院内で2名の協力を得ることができたのと、提出〆切前の週末が3連休ということもあって、徹夜覚悟の修正作業がはじまりました。
▽ICTの恩恵
幸いだったのは、ICTの普及ということもありました。院内での作業を覚悟していましたが、ご支援先がモバイルカルテを使われていることもあったので、PCを1台貸与いただきました。
またエラー修正には、クラウドストレージサービスのBOXを使ってデータを共有し、担当に分かれ修正作業を行いました。
こうしたこともあり、1名は院内で作業していただくことになりましたが、私ともう1名のスタッフさんは自宅で作業をすることができました。通勤の時間がとられない、というだけでもこれは大きなことでした。
エラーの修正にあたっては、患者IDごとに潰していくのではなく、先ほど記したようにエラーの内容に共通のものが多かったので、エラー毎に修正事項を担当することにしました。そうすればある意味単純作業になるので、作業が早く進むと思ったのです。
これが幸いしたのか、修正作業は3連休最終日の夜にはどうにか間に合い、週明けに再度のエラーチェックをかけてもらい、多少のエラーは残るものの、提出の目処がつくところまで辿り着き、無事締切日を守ることができました。
▽マネージするということ
今回の修正作業を通じ、いくつか留意したことがあります。
まず経営的みれば圧倒的によくないことですが、私が直接的に修正作業に介入することで医事課スタッフさんの自尊心を傷つけないよう、あらかじめスタッフさんの意思を確認してもらうことにしました。プライドを傷つけられたスタッフさんが「辞める」と言い出すのではないかと考えたからです。
幸いこちらのスタッフさんは状況を理解いただいていたので、「今回は時間がないから介入するけれど、次は本データ作成の際は細目にエラーチェックしていきましょう」ということで同意ができました。この同意がなければ、私は介入を躊躇していたのと、院長には最悪人が辞めることになっても私はその件に関しては責任はとらないことを、院長が承諾してくれたとこも大きかったと思います。
私自身が修正作業に没頭しないこと—も留意したことの一つでした。
エラー内容が多かったので、膨大なデータを扱ったことがある方なら分かると思いますが、作業に没頭すると時折自分がどこにいるか分からなくなるときがあります。このときも、1名のスタッフさんから、修正しなくても良い内容(具体的には修飾語コード)の作業に入ろうとする報告があったので、「それは今回のエラーにはなっていないからやめましょう。最短でいきましょう」と提案させていただきました。
コンダクター(指揮者)がいないと、全員が作業に没頭してしまっては、軌道を外れてしまう可能性があり、冷静に状況を判断することの大切さということを、あらためて考えさせてもらうこともできました。

▽やり切る、ということ
年末、嬉しかった出来事の一つは、こちらのご支援先から無事在宅データ提出加算の届出ができた、という報告を受けたことでした。修正作業中に発生するスタッフさんからの質問に深夜まで対応し、翌早朝から作業に入る報告をスタッフさんから受け、結局3連休はひたすらPC前に陣取ることになりましたが、こうしたしんどさは一時のことで、クリアすれば残るのは達成感と作業を通じて得た気づきであることは、これまでも学んできたことでした。
臆せず挑戦する。やり切る。
いま、こちらのご支援先では作業に関わった1名のスタッフさんが、今回のエラー内容と修正作業を通じて得た気づきをレビューし、院内で勉強会を開き、本データ提出に備えた動きがすでにはじまっています。
こうした行動を通じて組織が成長していくのではないか。そんなことをあらためて感じさせていただいた、秋口の出来事でした。
投稿日:2025年12月28日
