令和のコメ騒動は対岸の火事か… 医療の格差はあり得るのか

夏を過ぎ、来年の診療報酬改定に向けての話題が徐々に盛り上がってきています。

人口構成が大きく変わり始めている2025年問題の真っただ中で、とくに前回の診療報酬改定で新設された地域医療包括病棟の行方などが大きく注目されているようです。

社会保障費で成り立つ診療報酬は、ときの経済状況とも無縁ではありません。日本の経済が上向き、私たちの暮らしが豊かであれば、診療報酬もきっと手厚くなることが期待できます。

しかし経済成長率を測る指標の一つであるGDP(実質)は1988年の6.66%をピークに下降し、ここ最近は2022年(0.94%)、2023年(1.49%)、2024年(0.08%)など低迷が続いています。

 

▽令和のコメ騒動に感じた違和感

昨年来からはじまった、お米の価格高騰がなかなか収まりを見せていません。要職である大臣が変わり、備蓄米の放出をはじめるなど手を打ってはいるものの、今年の新米価格はあまり下がっていない…という感覚を多くの人がもっているのではないでしょうか。

短期間で推移する価格のニュースに目を奪われると感覚が短期間のことにとって代わりやすいですが、過去を振り返ってみると2015年8月のお米5kgあたりの平均価格は1,943円。一方で足元では3,423円と金額にして1,480円、約76%も価格が上昇していることが分かります。ニュースをみていると、「新米は高いから少し安い古いやつを買った」といったコメントもよく聞きます。

お米の金額に関するデータ出所:株式会社マーチャンダイジング・オン RDS-POSスーパー全国

 

ところで、私たちは保険証があれば、全国どこの医療機関でも受診をすることができます。

最近では、大学病院や規模の大きな病院、また200床以上のベッドを有する病院へ紹介状を持たないで受診をすると「選定療養費」といって、診療報酬で定められた初診料や診察料などのほかに、実費を徴収される制度が導入されています。

選定療養費は、国が定める診療報酬とは別に、医療機関側である程度料金の設定をすることができる制度のことを言い、わかりやすいところでは「個室などの部屋代」や、まだ日本では薬事承認されていない薬、などがあげられます。

2026年は診療報酬の改定の年。

報酬改定の行方はとても気になるところですが、一方でこの選定療養費についても提案や意見が募集され、その結果が公表されています。

 

▽議論のベースは10年前にさかのぼる

選定療養費に関する議論のベースは、当時の総理大臣の名前をもじったアベノミクスで示された3本の矢(金融政策・財政政策・民間の成長)に絡む、日本再興戦略改訂2014のなかの、「戦略市場創造プラン/テーマ1国民の健康寿命の延伸/ⅲ保険給付対象範囲の整理・検討/最先端の医療技術・医薬品等への迅速なアクセス確保(帆円買い療養費制度の大幅拡充」にあります。

ここでは、先進的な医療へのアクセス向上のほか、療養時のアメニティの向上についても記載されており、定期的に選定療養として導入すべき事例を把握することなどが記されています。

出所:日本再興戦略改訂2014-未来への挑戦-

 

▽提案・意見の例

(導入案)

  • 具体的にどんな提案や意見がでているのか。いくつか例をあげると、
  • 執刀医を指名する料金(手術経験の豊富な医師に執刀してもらいたい患者は多い)
  • ホスピタリティに対する選定療養費(職員の努力に対して、一定の水準を満たしてる場合)
  • 制限回数を超える受診に対する選定療養費(保険診療で受診できる回数を設けるべき)
  • 患者の都合からの医師の指名料(担当医師を指名したいという希望に応える目的から)
  • 緊急性が認められない場合の救急車搬送(救急搬送が必要でない症例も多い)

 

(部屋代廃止意見)

  • 医療はお金のあるなしに左右されず、誰もが安心してうけられるべき
  • 差額ベッドは、社会経済的格差が医療格差にならないよう配慮が必要だと思います
  • お金のある、なしで個室が使える、使えないと差があるのは差別

 

(大病院の初再診廃止意見)

  • (地方では)かかりつけ医が近くになく、大病院に受診せざるを得ない人もいます
  • 夜間に小児が時間外受診できる病院は大病院であり、自己負担を求められる場合がある
  • 地方の病院では選定療養により受診控えとなっている
  • 自由アクセスを制限する制度であり、不要です。

…などなど。もっと内容を見たい方は、「選定療養に導入すべき事例等に関する提案・意見募集の結果について」へアクセスしてみてください。

 

 

▽令和のコメ騒動は対岸の火事か、医療格差はあり得るのか

選定療養費は、ひらたくいえば「実費」の部分であり、保険ではカバーされない領域です。

意見のなかにも「格差」という単語がでてきていますが、この「実費」であるということに、格差を危惧する方もいるのだと理解しています。

冒頭のタイトルは、個人的には今後お米の価格が落ち着くことはあるとしても、「一定の差」ができることは不可避のように思えることによっています。

これまで、東南アジア圏の病院をいくつか見学したことがあります。

多くの国で、公的医療機関の環境はおしなべて民間医療機関のそれと比べて、とくに環境面では劣るという状況にある現実をみてきました。

公的保険でカバーできる部分は国の経済状況の反映を受ける。これを超える部分は金銭的手段によりグレードをアップすることができる。という事実は海外では半ば当然のこととしてありました。

格差は小さいに越したことはありません。

より小さな格差で良いサービスを提供しようとするのであれば、あるいは受けようとするのであれば、互いが努力し、私たち一人ひとりがいまを良くするよう常に努めていくことが大切なのではないかと考えています。

 

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