7月20日に行われた第27回参議院銀選挙が終わり、まる2週間が過ぎようとしています。
先にお断りしておきますと、この投稿になんら政治的意図はありません。私自身、支持政党などはもたない浮浪な無党派層であり、ただのいち市井の者のひとり言として、本投稿を読んでいただければ幸いです
そんな普段選挙関連のことなどには触れない私でも素通りできなかったのが、今回の選挙で争点の一つになっていた社会保障費の削減の公約。このこと自体はなんら真新しいことではなく、2025年問題を前に常に議論されていたことでもあるので、多くの方が耳にしていることだと思います。
最近では2025年8月に高額療養費の負担上限を引き上げるとした議論が、多くの反対論のなか見送られたことも記憶に新しいところです。
こうしたなか、またも自己負担に関係してくることになる「OTC類似薬の保険適用除外」がにわかに脚光を浴びていました。
▼OTC類似薬とは
OTC類似薬のことを述べる前に、「OTC医薬品」のことを知っておいたほうが良さそうです。
OTC医薬品とは、OTC( Over The Counter )の略で、ようはドラックストアなどの薬局で、医師の処方箋なしに購入することができる医薬品(市販薬)のこと。
一方で、今回の主題でもある「OTC類似薬」とは、医師の診断を受けたあと、私たちが受け取る処方箋のなかにある薬のなかで、「OTC医薬品」と成分や効果が似ている薬のことを言っています。
今回の選挙では、これら『市販薬』と成分や効果が似ている『処方薬』が、狙い撃ちされた形になりました。
ちなみに、関連する用語にもう一つ「スイッチOTC医薬品」があります。これは、安全性と有効性が確認された医療用医薬品から転用された医薬品、という意味で、直接OTC医薬品として承認されたものとは位置づけが異なります。このスイッチOTCについては、本稿の後段で触れたいと思います。
▼選挙前にもあった布石
2025年4月。自民党・公明党・維新の3党から、OTC類似薬のうち保険給付除外対象とする具体的な薬剤名として、28有効成分の一覧がリストとして示されました。
(出所:全国保険医団体連合会)
OTC医薬品(市販薬)の欄をみると、アレジオンやロキソニンSなど、一般の方でもよく目にする医薬品があるかと思いますが、ここに掲載されている多くの薬は、日常の診療で広く使用されているとされ、薬剤の効能・効果、禁忌、副作用などの視点から、薬剤の適正使用が懸念されるものも少なくなく、多くの医療系団体が反対の声を上げました。
▼あわせて知っておきたい、セルフメディケーション税制
セルフメディケーション税制は2017年1月から開始された制度で、健康の維持増進・疾病の予防に対し一定の取組みを行っている個人が、スイッチOTC医薬品の購入額が一定額(1万2千円)を超えた分について、8万8千円を上限に所得から控除できるという制度です。
(出所:厚生労働省ウェブサイト セルフメディケーション税制について)
この制度、導入当初はわりと注目された記憶がありますが、単に購入金額だけでなく、「健康の保持増進および疾病予防への一定の取組み」=健康診断受診やらなんやら、の証明が必要だったりして、その後はまったくしぼんだ制度になっていると個人的には理解していました。
実際、令和7年5月21日に行われた専門家会合でも、本制度の利用者は令和5年度でわずか4万9千人にとどまっています(出所:セルフメディケーション税制の効果について)。
▼医療費控除とセルフメディケーション税制は併用不可、の現実
上記「セルフメディケーション税制」の画をクリックしていただいた方は気づいたかもしれませんが、セルフメディケーション税制は、医療費控除との併用はできません。
ということは、今後仮にOTC類似薬が保険給付の対象外になった場合でも、本当にこの薬を必要として医療費控除を使われている人にあっては、医師の処方箋がない薬以外の購入額はなんら控除の対象にならないため、結果として自己負担が増える、ということになってしまいます。
▼推定される影響にはどんなことが考えられるか
OTC類似薬の保険対象除外は、はやければ2026年度からの実施が想定されています。そうなった場合、患者側・医療機関側には、どのような影響が考えられるのでしょうか。
- 若く体力のある人は、市販薬の購入で済ませる-ということになりそうです。そうなると、医療機関としては受診者が減ることが想定されます。
- 高齢の方で、いくつかの疾病をお持ちの方は、市販薬のみに頼るわけにもいかないため、医療機関への受診との併用が続くと思われますが、服薬状況の管理が煩雑になりそうです。先にも記したように、禁忌などにも留意が必要なため、診察と服薬指導に丁寧な確認と説明が求められてきそうです。
- 全体として社会医療費が抑えられれば、またそのことにより若い人の負担が減ることは、閉塞感ある世代格差の解消にも一役買うかもしれません。
- 地方などドラッグストアまでのアクセスに一定の距離がある場合には、OTC医薬品の配達サービスなど、医薬品と宅配サービスや、コンビニでの受け取りという方法が一気に普及する可能性もあります。
負担が増える一方で社会が便利になり、また活性化し、結果として経済が昔のように上向いてくれば、一時的に感じる負担感は忘れ去られ、便利な面が残るという楽観的な考え方もできそうです。
ただなにぶん、変化を嫌う気質が濃い私たちの国民性を考えると、否定的意見が多いのも理解できなくはありません。
いずれにしても、この議論は関係する今後の制度にも大きな一石を投じる試金石になるのではないかと、個人的には感じています。
投稿日:2025年8月2日