こんな取扱いはご用心 ~利益剰余金の話し~

これまで何度か、病院の移転や診療所の分院の開設などのお手伝いをさせてもらいました。こうした行為に伴い発生する諸手続きは多々ありますが、その一つに定款変更があります(法人格所有の場合)。

タイトルの利益剰余金の話とは一見無関係にも思われますが、普段からこのあたりの取り扱いをちゃんとしておかないと、いざ定款変更といった際に手続きがスムーズに進まず、思わぬ労力や出費が発生することになるのでご用心、というのが今回のお話しです。

 

▼医療法人の非営利性

医療法人は非営利であることが求められます。これまでも医療法人の制度に係る検討会で、「 医療を提供する法人の使命は、『「地域で質の高い医療サービスを効率的に提供する」ことであり、これが一番の目的となるものである』。したがって、医療を提供する法人は、「営利を目的としない」こと、すなわち「法人の対外的活動による収益性を前提としてその利益を構成員に分配することを目的」としないこと(非営利性の確保)が求められる。」などとされてきました。

引用:医療法人制度に係る状況等について

 

▼非営利の誤謬

ここで、「営利を目的としないこと」の解釈に気を付けたいところです。営利を目的としない=儲けてはいけない、ではありません。そもそも、適正な利益をださなければ、経営を継続していくことはできません。

  • 売上を上げる
  • 費用を抑える
  • 利益を出す

ということは組織としてのあるべき姿だと理解しています。

 

では、非営利とはなにか?

これは医療法の第54条でも定められているように『剰余金の配当』が禁じられている、ということだと理解しています。剰余金とは、端的にいうと「企業の財産(資産)から、資本金と資本準備金を控除した(除いた)金額」であり、株式会社などでは、この剰余金が株主への配当原資となります。

しかし医療法人では、資産から負債と(開設のために用意した)資本金を除いて、毎年積みあがった利益(剰余金)を分配することはできない、ということが言われているのです。

 

▼こんなこと、していませんか?

まれにではありますが、決算書を拝見すると医療法人から理事長や法人の役員へ貸付金が発生していることがあります。これなどは直接的なケースであり分かりやすい部類ですが、これは剰余金の配当とみなされ是正を求められることがあります。なぜ貸し付けたのかの説明と、返済についての方向性を明確に示すことが求められることが往々にしてあります。

このほかにも「剰余金の配当とみなされる」というケースがあります。たとえば、よくあるのがMS法人(メディカルサービス法人)で不動産(土地や建物)を所有し、それを医療法人へ賃貸し賃貸料収入を受けている場合。

こうしたケースは、近隣の土地建物の賃借料と比較して高額な場合は、剰余金の配当とみなされることがあるので注意が必要です。当たり前の話ではありますが、賃借料が一定ではなく、医療法人の売上によって変動するような契約になっている場合も同様の扱いを受けることに留意が必要です。

 

 

▼無駄な費用(冗費)の発生にご用心

冒頭にも書いたように、移転や分院開設の際には「定款変更」が必要になります。ここではじめて、上記のようなお金の流れが発生していることが明らかになった場合、その経緯の説明が求められることがあります。しかしこの段階は、すでに新たに事業をはじめようとしている場所について確保されているフェーズです(定款変更時、開設場所の住所は決定しているからです)。

ケースによっては、地代家賃が発生していることも少なくありません。そうすると、本来1~3カ月程度で済む手続きが長引いてしまい、その場所での開設ができず、無駄な費用(家賃)を払い続けることも少なくありません。

そうしたことがないように、普段の運営から上記の事柄などには注意しておくことが有益です。

 

投稿日:2025年8月15日

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です