知らなきゃ損な経営指標 ~経常利益率~

来年、2026年の診療報酬改定に向けた議論がキックオフしています。夏に向けて調査があり、議論が深まったあとの10月頃には報告があり、とりまとめへと進んでいくスケジュールが発表されました。

出所:令和7年4月9日 中医協総会

 

その後の第1弾となる4/23日の中医協で、とてもショッキングな内容が提示されていたので、今回はこのことについて書いてみたいと思います。

 

▼やっぱり厳しい医療機関を取り巻く環境

病院経営が厳しさを増している…

こうした声は従来からあったものの、昨今の賃上げ圧力が強まるなかで、より顕著になってきたように感じます。そんな風潮を察してか、4/23の中医協では「医療環境を取り巻く状況について」と題した資料が提示され、その中に次のようなスライドがありました。

出所:令和7年4月23日 中医協

 

経常利益とは、売上高から営業に係る費用を引いた営業利益から、営業外で得た収入(補助金など)を足して、さらにここから営業外でかかった費用を引いたもので、経常利益率は、この経常利益が売上高の何%を占めているかを示す経営指標です。

[経常利益=営業利益(売上高ー費用)+営業外収益ー営業外費用]

 

従来、経常利益率や純利益率は急性期病院で低く、慢性期では比較的高いとされてきました。売上の規模が違うので、一概に高い・低いだけを議論するのはここでは適当ではありません。

ただ、上の表をみてもらってもわかるように、令和5年度は中央値で病院が1.2%、診療所で6.1%ほどしかありません。

1年間で10億円売り上げる病院があったとして、経常利益は1千2百万円ほどの計算になります。

医療は非営利の原則がよく言われます。ここでいう非営利とは”儲けてはいけない”ではなく、得た利益を株式会社のように分配していることを禁じているのであり、経営を継続していくためには獲得した利益を次の投資に回していくことが必要になります。

1年間に10億円稼ぐ病院の規模で、1千万円の規模しかなかったら、いったい何に投資ができるというのでしょうか…

 

▼業界的にはどうなっている?!

ここで当然、他の業界はどうなっているのかといった疑問がわいてくることと思います。全国のあらゆる産業は、「日本標準産業分類」により分類されていて、これをヒントに他業種と比較をすることができます。

分類は大分類~中・小分類まで細分化されていますが、以下に大分類(A~T)を使い、令和6年度速報「中小企業実態基本調査(令和5年度決算実績)」で公表されている資料を貼付してみました。

 

出所:中小企業実態調査 令和6年速報 調査の概況(集計結果)第3-3表

 

いかかでしょうか。もちろん、業種・業態別の特徴はあるかと思いますが、2%下回っている業種・業態は令和4年度、あのコロナ禍の逆風にあった「宿泊業・サービス業」以外に見当たりません。医療機関にいたっては、コロナ禍よりも悪化している…とも読み解くことができます。

 

▼視点が偏らないために

経常利益率というのは、結構銀行が重視する指標ともいわれています。営業利益は「売上-費用」であり、いわば”本業で稼ぐ力”を示しています。当然、ここが一番大事になるのですが、一方の経常利益はこの営業利益に営業外活動で得た収益と、営業外で発生した費用が差引されでてくる利益であるため、手元に残るキャッシュがどれほどあるかを示しているといえます。

そのため、お金を貸す側としては、本業で儲ける力はもちろん重要だけど、キャッシュを生み出す力がどれほどあるかも重視されるということになるわけです。

さて、視点が偏らないためにといったのは、経常利益率の高低にとらわれてしまうと、正しい読み解き方ができないと思ったからにほかなりません。

上の表で経常利益率が高い製造業や建設業はあらたな機械などの投資を行わなければ、健全なサービスの質を維持できません。質が悪くなれば、最終的な消費者である私たちが被害を被ることにもなりかねません。

なので、高低だけの議論ではなく、その業態の特徴をとらえておくことも必要でしょう。

 

▼おわりに

話を最初に戻します。診療報酬は2年に1回見直しが行われます。

私たちが受ける医療サービスの多くは、国によりその単価が決められており、ここ数年の改定率は1%を下回ることが多くなっています。

仮に来年の改定がマイナス改定だったとしたら… 極端な話、マイナス1%(そのようなマイナス改定は過去2回しかありませんが)などとなったら、多くの医療機関で利益がでないという異常な事態に陥ってしまうということになってしまいます。

医療機関の経営に携わる立場にある人は、財務諸表の読み方を知るとともに、どうすれば、今回取り上げた経常利益率や、本業での儲けを表す営業利益率をよくすることができるかを考えることも重要なのだと思います。

 

投稿日:2025年4月28日

 

 

 

 

 

 

 

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