人件費率適正値についての考察

先日、ある医療法人の経営陣と売り上げに占める人件費率の適正値について議論が交わされました。

医療・介護はいわゆる労働集約的産業であり、人がひとをケアする以上、売上高に占める人件費が他の産業に比べて高くなることは避けられません。昨今の賃金上げ圧力の流れについては、当然一定の理解はできるものの、診療行為、サービス行為の多くが保険点数という公的価格で縛られる以上、突出して高い給与費を払うことができる医療機関は少ないのではないでしょうか。

今回はこのときの議論で参考にした資料などを交え、書いてみたいと思います。

 

▽病院の場合

医局、看護部、薬剤部、医療技術部など多くの部門からなる病院では、総じて人件費率は高くなりがちですが、のべつまくなしに給与をあげれば、収入に占める人件費率の割合が高くなり、他の費用や投資へ向ける原資が圧迫されてしまうことは想像に難くありません。

では、どのくらいが適正なのか…。

ベンチマークとして、医療経済実態調査の資料をみてみると、おおむね次のような傾向にあることが分かります。

出所:政府統計の総合窓口 医療経済実態調査(第24回)

 

医療法人では集計1で57%台、集計2では1ポイントほど上がり58%台などとなっていますが、医療法人では50%台後半が理想。60%台だと要注意であり、70%台では早急になんらかの改善が必要だと理解しています。

もっとも「医業収益に占める構成比」であるため、医業収益が規模感に対して適正に得ることができているのか?という視点は必要です。

医業収益部分に改善の余地があるのか。あるいは人件費そのものに課題があるかを見極める必要があります。なお人件費を決める際には、13~15%の法定福利費の存在に留意する必要があります。健康保険や厚生年金、雇用保険や労災保険は従業員と事業主がそれぞれ負担していることを忘れて給与を設定してしまうと、法定福利費を勘案したときに給与費が想定より膨らんでしまうことに注意が必要です。

 

▽診療所の場合

診療所では、まず「法人」か「個人」かで大きな違いがあるのと、有床か無床かで前提が異なることに留意をしながらみてみると、概ね次のようなものとなっています。

出所:政府統計の総合窓口 医療経済実態調査(第24回)

 

診療所の場合、上記にあげた前提を考慮するとしても、整形に特化していたり、内視鏡に特化していたり、あるいは在宅に特化しているなどといった状況によって、どうしても振れ幅は大きくなるように思えますが、おしなべて見れば法人では50%以下、個人はさらに低く25%台などとなっています。

 

▽別な角度からの資料では

上記にあげた表を、もう少し可視化した資料があるので、そちらでも見てみたいと思います。こちらは上記の第24回ではなくその前、第23回の医療経済実態調査のものですが、グラフ化されているので分布状況を把握することができます。

 

 

出所:令和4年10月5日 中医協

 

いかかでしょうか。

病院では60-70%台でもっとも分布が多く、診療所は病院に比べれるともう少し分布の幅が広くなっています。これなどは先に述べた「業態の幅」ということに違いがあるという理解です。

 

2枚目のグラフで注意してほしいのは、医療法人では横軸の一番左が≦20%となっているのに対し、国立・公立病院では≦50%からスタートしていることには留意が必要です。やはり、国公立では人件費が民間に比べて高いことの証左の一端といえそうです。

 

▽おわりに

社会的に賃上げ圧力があるなか、人材採用においては「ライバルは他産業」という声も耳にします。近年は事務手続きも煩雑化し、優秀な事務職員がいることは医療機関での優位性の一つにもなっています。クリニックの事務長代行のようなサービスを提供する会社が増えていることも、こうした背景があると理解しています。

医業収益に占める割合が高い宿命の医療機関において、適正な人件費率を探す道程は尽きない旅のようなものなのかもしれません。

 

2024年10月4日

オフィスシ謝府礼 代表 阿部 勇司

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