特別養護老人ホームに入所している方へ保険医が診療を行った際の診療報酬の請求には、介護報酬や支援費等の給付調整の関係から、様々な制限があります。
こうした関係の問合せは以前から多く寄せられることがあり、これまでご支援させてもらってきた医療機関の7割程度からは、同じ質問を受けてきたような気がします。
ここしばらくはなかったのですが、最近また同じような質問を受けたので、あらためてこの問題を調べ整理し、報告する機会がありました。
▽配置医師という制度
大雑把にいうと、まず特別養護老人ホームにはたいていの場合、「配置医師」というポジションの医師がいます。ただし、この医師は常駐ではなく、近隣のクリニックや病院の先生が週に1回程度、施設を訪問し入居者の方の診療を行うというのがほとんどです。
ただこの配置医師というポジションで行う診療においては、初診料や再診料・医学管理料といった、診療行為に付随する診療報酬がほぼ制限されています。そのため診療した際に請求できる項目として、パッと思いつくのは「処方箋料」くらいしかありません。
ただこれではいくらなんでもボランティアになってしまうので、多くの場合は月額○○万円などといった契約の形をとったり、なかには1人あたりの委託料として契約を結んでいるケースもあるようです。
▽こんなケースに要注意
今回オーダーを受けたのは特養などの介護施設以外にも診療所を運営している社会福祉法人様からで、「配置医師でない診療所の医師が特養の入所者へ診察した場合に、初診料や再診料はとれるのか?」といった内容でした。
配置医師でない場合は、入所者の求めに応じて行われるものであれば、初再診料の算定は可能とされています。ただ、ここで注意したいのは、定期的な医学管理を前提に診療が行われる場合には、「配置医師とみなされる」という考え方に留意する必要があることです。
上記の場合、専門が皮膚科や眼科など内科以外のケースで一時的な増悪があり、一定期間診療が必要とされる場合には回避されるように思いますが、配置医師ではない医師が実態として、定期的な医学管理を行うような形の診療は「みなし配置医師」として、初再診料などを算定することはできなくなる可能性が高いことを知っておく必要があります。
▽調査報告に助けられた行政資料
今回の報告書作成にあたり、様々な資料をあたりましたが、いくつか秀逸な資料を提供してくれている行政資料がありましたので、せっかくなのでここで共有しておきたいと思います。
一つ目は大阪府の健康医療部 健康推進室 国民健康保険課 医療福祉グループが編集している「医療費の適正な保険請求等にあたって」。
こちらは8ページからなるPDFですが、配置医師が請求することができない診療報酬が端的に記されていて、情報量に圧倒されがちな資料ではないという点で優れいていると思います。
二つ目は熊本県の国保・高齢者医療課が提供している「特別養護老人ホーム等における適正な診療報酬請求について」。
こちらは上述した「みなし配置医師」とみなされたケースについて、実際に会計検査院から指摘された事例などが紹介されているほか、保険医が配置医師の場合と、配置医師であるか否かを問わない場合のそれぞれについて、●×で一覧表が付されている点で分かりやすい構成になっています。
▽おわりに
いままでも質問される都度、こうした資料を探しながら自分なりに報告書をまとめてきました。
ただいつもと違ったのは、これまでは医療機関側から質問を受けることが多かったことに対し、今回の質問は当事者でもある社会福祉法人様だったということ。そして、そのご担当者様に納得いただけたという点で安堵できたとともに、調査報告に役立った資料を読者の方と共有したいという思いから、今回の記事を書いてみました。
同じような質問や疑問を持つ方の一助になれば幸いです。
2024年9月27日
オフィス謝府礼 代表 阿部 勇司