この記事に書かれている内容は、2023.5.29時点の情報のものです。
こんにちは。オフィス謝府礼の阿部です。
去る3月31日の厚労省からの通知「医療提供体制の確保に資する設備の特別償却制度について」を見たクライアント先のスタッフさんから、「調べてみたのだけれど、いまいち要領を得ないんですよネ…」という相談を受けました。
今回は、この「特別償却制度」について、超ざっくりと解説をしてみたいと思います。
▽特別償却制度とは?!
本制度の背景には大きく2つのことが存在しています。一つは「地域医療構想」。そしてもう一つが「医師の働き方改革」です。
この制度は、この2つの側面からみて、医療提供に必要な設備を購入したり、病院を建替えたりした場合に得ることができる、いわば「税制・金融優遇措置」の一環ということをまず抑えておいてください。
出所:医師の働き方改革と医療勤務環境改善~特別償却制度~
つまり、この制度は国が進める施策を理解して、それに必要な設備等を購入等した場合は、「それぞれの制度に適応している特別償却割合を適用して良いですよ」、というものになります。
▽どんなものが適用になるのか?
現在適用になっている主なものは3つ。
一つは「医師等の労働時間短縮に資する機器等」の購入に充てた費用が該当します。この償却率は15%で、具体的には次のようなものがあげられます。
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勤怠管理を行うための設備等(ICカードや勤怠管理ソフトウェアなど)
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勤務シフト作成を行うための設備等(勤務シフト作成支援ソフトなど)
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医師等の書類作成時間削減のための設備等(AIによる音声認識ソフトウェアなど)
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CTなど、救急医療の現場において短時間で正確な診断を行うためのもの
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バイタルデータの把握のための設備等(ベッドサイドモニター、患者モニターなど)
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医師の診療を補助する設備等(手術支援ロボットなど)
などなど、これ以外にも通知には多くの設備機器等が掲載されているので、眺めていると大概のものは該当するのではないかと思われます。ただ、いくつか注意しなければならない点として、「原則、時間外・休日労働が3カ月平均で60時間以上となっている医師を対象とし、この実態を把握すること」、そして、申請にあたっては勤改センターの医療労務管理アドバイザーや医療経営アドバイザーの助言が必要なこと、などに留意が必要です。現状を分析して、計画を提出する必要があります。
二つ目は「地域医療構想の実現のための病床再編等の促進に向けた特別償却制度」です。
これは、地域医療構想調整会議において提出・確認された地域の方針により、病床再編を行った場合の工事により取得した建物や付属設備を、特別償却の対象とするもので、償却率は8%。
そして三つ目は「医療用機器の効率的な配置の促進に向けた特別償却制度」。
これにはMRIやCTなど、高額医療機器について、共同利用と効率的な配置を進める必要があることから、利用率の高い既存機器への集約化や、共同利用を目的とした医療用機器の新規購入を行う場合に特別償却の対象とするもので償却率は12%、などとされています。
▽減価償却費を知っておきましょう
本制度を理解するためには、まず減価償却という制度を簡単で良いので理解しておく必要があります。
減価償却費とは「設備などの購入にかかった費用を一定期間に配分して、損益計算書上の経費として処理する会計処理の方法」のことを言います。
例えば5千万円の設備を購入したとして、このときの費用をその年の会計年度に一度に費用計上してしまうと、利益が大きく損なわれてしまうことになり、財務諸表上赤字がでたりしたら銀行などからのイメージもよくありません。
一方で、設備(資産)は時間が経つとともにその価値が減少していくのが通常です。
そこで、定められた耐用年数を最大とし、この期間の間、例えば「5千万円のもの/耐用年数10年」であれば、5千万円を120ヵ月かけて毎月費用計上していく…という考え方が減価償却です(処理方法は「定額法と定率法」がありますがここでの説明は割愛します)。
そして、ここでのポイントは、「減価償却費は損益計算書上、費用として計上されるものの、実際の費用としてはでていない」=実際の現金の出費は伴っていない、ということに留意が必要です。これは会計処理上のポイントにもなりますが、損益計算書に計上される減価償却費は、財務会計処理上の費用であって、実際の現金(キャッシュ)の動きを必ずしも表していないことに留意してください。
▽結局どの辺が得なのか?
特別償却制度の話しに戻りますが、次の表をみてください。
出所:医師の働き方改革と医療勤務環境改善~特別償却制度~
特別償却制度は、通常の減価償却費に加えて、本制度を利用して購入した設備等に関しては、購入価額の15%(医師の働き方改革関連に資するものの場合の償却率)を上乗せして良いよ、というものです。
この処理をするとどうなるか。一般に、損益計算書は「収益ー費用=利益」で表され、最終的な利益に事業税や住民税が課されることになるのですが、費用である減価償却費が大きくなることで、損益計算書上の利益を減らすことができます。結果、納める税金は少し得になる、という図式が成り立ちます。